|
日本生活情報紙協会 第8回エッセイコンテスト入賞作決定
|
エッセイコンテスト入賞者発表 |
静岡リビング新聞社をはじめ、フリーペーパー発行社46社が加盟している日本生活情報紙協会が、募集をしていた「第8回エッセイコンテスト」の最終審査結果がこのほど発表されました。
|
|
最優秀作品 |
|
「選択肢はいっぱい〜定年を迎える父へ〜」
定年退職を今秋に控えた父がしみじみそう言うと、なんだか妙に実感がこもっていておかしい。 久しぶりの帰省でハネを伸ばしていた私は、父の言葉にくすりと笑った。そうねえ、団塊の世代と呼ばれる父の世代の怖い物と言えば、地震、雷、火事、親父だっけ。とはいえ、おっしゃる通り、還暦間近。怖い物などもうないという風に見えますけれど。でも、パソコンを前にすると、あら不思議。その父が、まるでパンドラの箱に触れる少年のごとく、おっかなびっくり、本当にとっつきにくそう。それにしても、たまの休日。普段パソコン嫌いの父が、なぜ急にパソコンを立ち上げたかというと、どうやら来週の金曜日、父より一足早く還暦を迎える母のために、内緒でレストランの予約をしたいらしい。ま、そういう理由なら私も、「ままならない」と言う父の言葉を覆すために、お節介焼きの主婦として、腕をまくろうか。 私がそっと父の後ろからのぞくと、やはりレストランのホームページ。週末ごとに実家のポストに投函される某フリーペーパーで紹介されていた、隠れ家的フレンチレストランだ。ついでに老眼鏡をかけた父の手元に目が行くと、そのフリーペーパーから切り抜いたのであろう、しゃれた写真付きのクーポンが、また妙にきっちり置かれてある。私はつい横から口を挟んだ。 「なあに。このハウスワイン一杯サービス? 電話すれば早いのに」 「いや、インターネットで予約というのも、こういう機会でもないと覚えないからね」 へえ。さすが団塊の世代。頑張り屋。だが、しごくまっとうな答えの割りに、父の額には脂汗で、軽くフォロウが必要なようだ。「あ、そのボタン。そこをクリックするといいかもしれない」「お、そうか。こうすると、簡単にできるんだな」「うん。同じことを携帯でできるサービスもあるわよ」 「そうか。いろいろあるんだな」 「うん。選択肢はいっぱいね。お父さんも、これからの人生、選択肢がいっぱいあるわね。ゆっくり楽しんで。今までご苦労様だね」 「ああ、言われなくても、目一杯楽しむよ。君らはまだまだご苦労様だね」 ちぇ。可愛くないの。でも一番懐かしいのは、こんな親子モードのやり取りだったりして、思わず私は声を立てて笑っていた。 居間のソファで、猫みたいに目を細めていた母が、こっちを見る。母も母で、今朝のうちにフリーペーパーに○をつけて、父に見えるようにテーブルに広げておいたくせに、まだ知らんぷりしているのだから、ツールは変われども、うちの両親は、相変わらずなのだ。うれしいやら、おかしいやら。元気でね、二人とも。 |
| Copyright (c)2001 Shizuoka Living Newspaper Network, Inc. All rights reserved |
このサイト内で使用されている 写真・イラスト・文章の無断転載はできません。 お問い合わせは「Lウエーブ事務局」へどうぞ。 |