香りというのは「か」プラス「をり」で、「か」は気のこと、「をり」は酒が発酵すること。つまり香りとは気や気配が発酵して、周りに漂い、充満している状態をいいます。これは以前お話ししましたね。
日本に香りが伝わったのは、仏教の伝来と深く関わっています。例えばそれは、香典という言葉を思い浮かべただけでもお分かりいただけるでしょう。
その仏教では仏の国である仏国土を「香集(こうじゅう)世界」といい、あらゆる香りが集まり、得も言われぬ良い香りのする世界とされています。
ところで、古の世界では香りはどのように使われていたのでしょうか。
まずは、いくつもの素材を混ぜ合わせて薫物(たきもの)をつくり仏前で使いました。それから、空薫物(そらだきもの)といって、部屋で香木を焚(た)き、香りを漂わせることもしました。絵巻物の中にも空薫物を見つけることができます。
そうしてもう一つ重きを置いていたのが、着物に香りを焚きしめる衣香(えこう)。これは主に男女のコミュニケーションを円滑にするのが目的です。もちろん、虫除けの目的もあります。
ここで思い浮かぶのは、紫式部が麗筆を揮(ふる)った『紫のゆかりの物語』(『源氏物語』)。この物語で最初に出てくるニオイは、なんとニンニク。
「帚木(ははきぎ)」の巻では、当時は通い婚ですが、夫が妻を訪ねていくと、妻が病気で床に臥(ふ)せっている。そこへ妻の方から強烈なニンニクのニオイが漂ってくる。で、妻は、夫に向かって歌を贈るのです。臭いから逢えませんと(笑い)。
汗のニオイを扱った巻もあります。「空蝉(うつせみ)」です。空蝉は心とは裏腹に光源氏を徹底的に拒む女性です。あるとき空蝉は、光源氏に言い寄られますが、夏衣をさらりと脱ぎ捨て、身をかわします(実はこの話、細部がおもしろいのでぜひ原文を)。光源氏は、残された衣を持ち帰って、傍らに置いて夢路を辿(たど)るという何とも素敵な場面があります。
そこで空蝉は、あの衣は伊勢の海士の衣のように塩っぽく汗くさくなかったかと、とても気に病むのです。
話は逸れましたが、『源氏物語』を読んでいると、色と香りが分かちがたく結びついていることに感動すら覚えます。
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