明眸皓歯(めいぼうこうし)という言葉があります。美しく整った眸(ひとみ)に皓(しろ)く輝く歯という意味で、絶世の美女を指していう言葉です。中国最高位の聖人である杜甫(とほ)が楊貴妃の美しさをこう表現しました。
このことからもわかるように古代から、瞳と同じくらい、歯の美しさが美人の絶対条件だったのです。
「歯」という漢字は、大きく開けた口の奧に歯が並んでいるようすを象(かたど)った文字です。
興味深いことに、殷の時代の甲骨文字には既に「齲」という字体を見つけることができます。これは「むしば(虫歯)」と読みます。なんと古代からずっと人々は虫歯に悩まされてきたんですね。
ところで年齢という言葉の中にはなぜ歯の文字が入っているのでしょうか。
「続日本紀(しょくにほんぎ)」という平安時代初期に編まれた書物では年齢のことを「年歯(ねんし)」と綴っています。このころは、歳は歯の「見た目」で決めていたのです。要するに歯を見てひとの歳を予想し、判断していたのだと考えられます。昔の人々、特に庶民は、歳を今ほど厳密に、今年で何歳だ、と考えていなかったのかもしれません。
年齢を歯で見るのは何も人間だけではありません。動物の中には歯を見て年齢を判断するものが多くいます。
哺乳類はその典型で、猿や犬には歯の断面にある成長層とよばれる年輪のようなものがあり、それでだいたいの年齢を知ることができます。
ちなみに馬は前歯のすり減りで判断します。また鳥類は種類によってクチバシの成長層で判断できるものがいます。
ところで五十歳を迎えた俳人・小林一茶はこんな歌を詠んでいます。「すりこ木のやうな歯茎も花の春」。おやおや、一茶にはこの歳で既に一本も歯がなかったようですね。絵でしか見たことのない一茶ですが、あの好々爺(こうこうや)の口元が目に浮かぶようです。
一方、貝原益軒の健康読本「養生訓」にはこんな下りがあります。「今八十三歳にいたりてなお夜、細字をかきよみ、牙歯(がし)固くして一もおちず」。さすが益軒先生、虫歯が一本もなかったことを強調しています。
長生きと美しく生きるコツは、やはり歯にありそうですね。
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