キッチュな静岡



第2回 料理見本(メニューサンプル) 

 静岡駅パルシェ食堂のショーウインドーに、タラコ唇スパが展示されている。笑えるが、あれを頼む客はいるのだろうか。
  本物に限りなく近づこうとする料理見本は、どうも江戸時代にまでそのルーツをさかのぼることができるらしい。
  「東海道中膝栗毛」に、ぼた餅の看板をかじる描写があるが、あれなどもその例だろう。また、しんこ細工のお菓子見本などもなかなか精巧にできていたらしい。江戸時代、すでにかなり精巧な食品模型があったことがうかがえる。とはいえ現在のような料理見本が現れたのは大正2年で、銀座の松屋百貨店の地下にあった洋食屋花月が、洋食を客になじませるために蝋(ろう)人形の職人に作らせたのが始まりという。
  原料は蝋からパラフィン、プラスチック、塩化ビニールへと変遷してきた。製法は、本物を容器に入れてシリコンを注ぎ型を取る。その型に、塩化ビニールのパウダーと油を真空状態で混ぜ、ゾルと呼ぶドロドロの液体を作り、流して固める。これに着色、焦げ目、つや出しなどタッチアップしてから盛りつけて完成となる。
  ここには、形態と質感、色調など本物にとって代わろうという凄みがあるが、食べられないという宿命がある。
  静岡市有東の「北村サンプル」は、昭和6年に創業。社長の北村脩さんによれば、料理見本は近年メニューブックにとって代わられ、どうも低調らしい。そこで、10年前に携帯ストラップの根付けに料理模型を用いたら、これが大ヒット! 本物を縮小すると、これがまた変に愛らしさをみせる。また、静岡おでんのサンプルが詰められた透明のバッグは、アカデミー賞の授賞式に小脇に抱えて行ったらもう、キッチュ。


(07/12/15号掲載)


 

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